それは美鈴も思わなくはなかった。

ハルシュタットが美しくて行きたい町であると同時に、ケルトの人達がどうしてここに逃れてきたのか気になっていたのも事実だ。

ただ、気になってるだけでそれ以上掘り下げようとは思っていなかったのも事実。

店長と拓海がそこを指摘しているんだと思ったら、あれだけ「行きたい行きたい」ってわめいていた自分が少し恥ずかしくなった。

これまでも行き当たりばったりで生きてきたような気がする。

大学も、なんとなく自分の偏差値でいけるところを探して見つけた。

このバイト先だって、本が好きっていうだけで、無理矢理働かせてもらってる。

ハルシュタットだって、たまたま見つけた本の写真に惹かれて行ってみたいと思った。

これから先の人生のことも、まだ何も考えてない。

来年は4回生だから、本当ならもっと自分の進路見つめなきゃいけないのに。

美鈴はレジに戻ると、やりかけの売り上げ計算を再開した。

そんな美鈴の気持ちを察したのか、店長は美鈴の頭をポンポンと軽く叩いて、

「いつも頼りにしてるよ美鈴ちゃん。売り上げ計算よろしく。」

と、ペットボトルのコーラをカウンターに置いてくれた。

「ありがとう。店長。喉がからっからだったの。嬉しいわ。」

人の好意は遠慮せず受け取らせてもらう主義だ。

美鈴はありがたくコーラを開けてゴクゴクと飲んだ。