「褒められてるんでしょうか?」

またレジに視線を戻して言った。

「褒めてるんだよ。子どものような純粋さを持ち合わせたその感覚は、僕は好きだけどね。」

好き・・・?

私みたいなの嫌いじゃなかったの?


見慣れたとは言え、やはり尋常じゃないオーラを放っている拓海に「好き」だんなんて、冗談でも言われたら冷静でいられなくなるよね。

「1680円になります。」

ひとまず、拓海の「好き」はスルーしてみた。

拓海はそっと二千円を取り出して差し出した。

拓海の指に触れないように、そっと二千円を取る。

「320円のおつりになります。」

おつりは、手渡しせず敢えてカウンターに置いた。

拓海は、おつりを財布に入れながら、小さな声で「ありがとう」と言った。

なぜだかわからないけど、とても優しい声だった。

そして、店内にまだあまりお客がいないのを確かめて拓海は続けた。

「さっき話してた、オーストリアのハルシュ?だったっけ、その町僕も見てみたいんだけど。」

思いもよらない拓海の言葉に、一瞬言葉を失う。

今日はやけに気さくだわ。

何か企んでやいやしないかしら。

少し眉間に皺を寄せて、拓海を見やった。

「いや、忙しかったらいいんだ。さっきの話、とても興味深かったから。」

「いえ、今大丈夫です。」

美鈴はレジを離れると、本棚の前に早足で向かった。

背伸びして、とろうとした背後から覆い被さるように拓海の腕が伸びてきた。

「これ、だね?」

「はい。」

自分のページをめくる指を見つめられていることにドキドキしながら、ハルシュタットの町を探す。

「これです。」

その場所を開いて、拓海に手渡した。