店長と美鈴は同時にその声の方を振り返る。

ドクン。

美鈴の脈が大きく震えた。

拓海だ。

店長が横にいるお陰か、拓海は微笑んで立っていた。

「お取り込み中、すみませんが、この本頂けますか?」

拓海は美鈴の前にその本を差し出した。

また小難しい題名のついた、分厚い本だった。

「は、はい。お買い上げありがとうございます。」

美鈴は慌てて、その本を受け取るとレジに走った。

丁寧に本の裏側を見て、レジを打つ。

今回はおつり間違えないようにしなきゃ。

ゆっくりとやってきた拓海はレジの前に立った。

必死にレジを打っている前で、くすくすと笑い声が聞こえる。

まさか、笑ってる?
 
レジに向いていた視線をちょろっと動かして拓海の顔を見上げた。

わ、笑ってる!!

能面のような、石膏でかためたようなきれいな顔が目を細めて笑ってるじゃない、私を見て。

美鈴は妙な胸の高鳴りを覚えた。

努めて冷静を装いながら拓海に聞いた。

「何か?」

拓海は目を細めて言った。

「君って、なんだかおもしろいよね。」

「何がおもしろいですか?」

興味があった。

そんなくすくす笑うほど、今の自分におもしろい箇所があるのかどうか。

「申し訳ないけど、さっきの話全部聞いちゃったんだ。聞くつもりはなかったんだけど、耳に勝手に入って来たっていくか。でも君のその独特の世界観ていうか迷いのない信念っていうか、すごいと思うよ。」

馬鹿にされてるんだろうか。

首を傾げて拓海を見る。

相変わらずきれいな顔。

でも、少しずつ目が慣れてきたような気もする。

だって、こんなに見つめられても、もう目を逸らそうとは思わなかったから。