拓海side・・・

拓海は、テーブルの上に置いたままになった封筒に時々目をやる。

ポケットに無造作に突っ込んだせいで、くちゃくちゃになっていた。

あの日。

自分は美鈴にひどい言葉を言ってしまった。

だけど、言わずにはいれなかった。

一番触れてほしくない部分を、ためらいもなく掴まれたような感覚だったから。

だけど、美鈴は必死だったのかもしれない。

今まで母親と向き合ってこなかった自分のために。

父から、自分のせいで母は死んだと聞かされていた。

自分が生まれてきたことずっと悔やんで生きてきた。

自分がいなければ母は死なずにすんだんだ。

だから、自分が例え母に愛されていたという事実があったとしても、愛されていなかったという事実があったとしても所詮母が存在しないということには変わりない。

いつか人は死ぬ。

そして、愛するもののそばから離れていく。

本気で誰かを愛しても、いつかは離れてなくてはいけないのなら、いっそのこと誰も愛さず一人で生きて行くという道もあるはずだと拓海は思っていた。

そうすれば誰も傷つけない。

誰も裏切らなくて済む。

そうやって生きてきた自分の前に突如現れた美鈴は拓海にとって奇妙な存在だった。

自分の気持ちに正直で、あけっぴろげで、かといって土足で踏み込んでくることはなかった。

一緒にいて、久しぶりに心から笑える存在だった。

拓海にとっては、大切になりつつあった。