湖には何羽かの白鳥が優雅に泳いでいた。

全ての空気がゆったりと流れている。

吹く風も、森の木々の揺れる姿も、民家になったリンゴも。

人の笑顔もゆったりと大らかだった。

くだらないことで悩んでた自分が嘘みたいに澄み渡っていく。

ここに来てよかった。

ゆっくりと歩きながら思った。

宿につくと、宿のおじさんが中心街のおいしいレストランを教えてくれた。

親切にメモ用紙に地図まで書いてくれて。

その地図はものすごく適当で、笑ってしまったけど。

でも、この通りまっすぐ行けば行き着くような安心感がある。

無駄なものが何もないハルシュタットの町だから。

ケルトが栄えた場所。

ひっそりと静かにその場所はある。

自然の中にとけ込むような町は、いつまで見ていてもあきない。

湖に付き出した甲板で美鈴は夕日が沈んで行くのを見ていた。

湖の表面がオレンジ色に染まり少しずつ藍色に変化していく。

その上を白鳥がゆったり滑っていく様子は、絵に描いたようだった。

こんなに落ち着く場所は初めてだ。

「やっぱり私の前世はここなのよ。」

美鈴はつぶやいて、一人で笑った。

持って来たスマホで画像を撮る。

薫に見せてあげなくちゃ。

いつか、また薫と来よう。

そろそろお腹すいたな。

美鈴は教えてもらったレストランの地図を広げた。