どれくらいの時間が経ったんだろう。

すっかり太陽は低い位置にきて、窓からの違和感のある光はどこかへ行ってしまった。

店員が、手のつけられていないランチを見て、「お下げしましょうか?」と聞いてきた。

美鈴は、黙ったままコクンと頷いた。

「美鈴!」

よほど慌ててきたのか、薫の髪は乱れていた。

「大丈夫?」

「薫ぅ~・・・」

そのまま、美鈴は薫に抱きついた。

「店出よう。最寄りの駅、そんな遠くないから歩こ。」

薫に体を支えられて立ち上がった。

お勘定のことは全て薫がやってくれている。

ただ「ごめん」としか言えなかった。

薫に肩を抱かれた状態でゆっくりと駅に向かって歩いた。

「何があったのかは聞かない。でも、きっと美鈴は彼のこと思って色々やったのね。」

薫はまっすぐ前を向いて言った。

「うん。」

「じゃ、いいのよ。いいの。美鈴は何も悪くない。」

「うん。」

「拓海は変なやつなのよ。最初あった時からそう言ってたじゃない?変わってるの。だから、普通のことが通用しないの。」

美鈴は頷かなかった。

拓海が言ってること、全部おかしくなんかない。

間違ってることなんて一つもなかった。

自分がおかしかったんだって。

「でも、大好きなの。」

そう言って、初めて涙が流れ落ちた。

「うん。わかってるって。」

薫は美鈴の頭を撫でながら一緒に泣いた。

二人で電車に揺られる。

結構な距離だった。

なのに、薫は嫌な顔一つせず駆けつけてくれた。

そのことが、美鈴の胸を温かくしてくれた。

一瞬だけだけど、拓海の冷たく言い放たれた言葉を忘れさせてくれた。

そして、薫は美鈴を家まで送り届けて帰って行った。