翌日、拓海は美鈴の家の前まで車で来てくれると言っていた。

一日、一緒にいられることに心浮き立っていたはずだったのに、拓海の父親から預かった封筒の重さに今頃になって腰がひけていた。

どうやって切りだそう。

拓海のお父さんに会ってきたって。

お母さんのこと、お母さんのお姉さんからの封筒を渡すこと。

拓海の車が到着した。

聞いていたとおり、小さなワゴン。

助手席に座ると、奏汰の車よりも隣と距離が近くて緊張した。

「助手席だね。」

拓海の助手席に乗れたことに嬉しいと言うよりホッとしている自分がいた。

こんなそばまでたどり着けたことに。

「どうしたの?」

拓海は車を走らせながら、正面を向いたまま尋ねた。

「なんだか、いつもと違う。」

「私?」

「うん。」

「緊張してるのかな。」

「僕の運転怖い?」

少し笑った拓海の横顔を見て少しだけ緊張がほぐれた。

「安全運転でお願いしまぁす。」

美鈴もおどけて笑った。

「どこへ向かってるの?」

「水族館。」

「水族館?」

「うん、嫌?」

「好きだよ、水族館。」

拓海が水族館なんて、正直意外だった。

「あたなは水族館好きなの?」

「好きだね。」

「よく行く?」

「一人でよく行ってた。」

「一人で?」

「うん、悪い?」

「別に悪くはないけど。一人でって、何か目的でもあったの?」

拓海はしばらく黙って、それから静かに息を吐いた。

「君って、いつも理由とか目的とかって聞くけど、そんなにそれって必要なこと?」

「だって、何か行動するときって、何もなくて動けないじゃない?お腹すいたから食べるとか、大学行きたいから勉強する、みたいなのと同じで。」

「僕の場合は、食べたいから食べたいものを食べる、大学行きたいから行くんだ。ただそれだけ。理由も目的もそんな意識したことないよ。水族館もただ行きたいから行くんだ。」

「ふぅん。私は違うわ。目的がないと動けない。イルカショーが見たいから水族館に行くとかね。」

「じゃ、君はハルシュタットに行くための理由を作らないといけないわけだね。」

また唐突だこと!

でも、それ以上言い返せない自分がいた。