玄関の暗がりの中、ぼんやりと見える拓海の父親の目と、白いたばこの煙が印象的だった。

夢を見ているような時間だった。

門をそっと閉めながら思う。

体が緊張のあまり痛かった。

時計を見ると、まだ奏汰と約束の一時間よりも随分早かった。

でも、目の前には奏汰の車がちゃんと停まっていた。

奏汰は車の中から心配そうな顔で美鈴を見つめていた。

その顔を見た途端、泣きそうになってぐっと握りこぶしに力を入れて踏ん張る。

そして、奏汰の助手席に乗り込んだ。

「ありがとうございました。」

奏汰の顔を見たら泣きそうだったから、前を見て言った。

「何が?俺の用事に付き合わせだだけだ。」

「そうですね。うん、そうだった。用事は済みましたか?」

「うん、意外と早く澄んだよ。5分くらいで済んだからずっとここで待ってた。」

きっと奏汰は美鈴を送り込んだものの心配でずっとここで待っていてくれたんだろう。

今更ながら奏汰の懐の大きさと優しさに感動する。

「じゃ、帰ろうか。すっかり遅くなっちまったな。」

「はい。」

美鈴は拓海のお父さんからもらった封筒をそっと自分のバッグに直した。

車はゆっくりと発進し、夜の町を抜けて行った。