「知り合いってほどでもないよ。一度顔合わせたくらい。」

拓海は無残にも切り捨てるように言い放った。

あ-、これだ。

これに緊張していたんだ。

自分を避けられてる感満載の言動。

女として自信失っていく瞬間。なんだか分けもなく暗い穴に突き落とされたような感覚。

これが人間性がいいって?

どこがなんだろ。美鈴には全く理解ができなかった。

「一度って、どこで顔合わせたんだよ。」

その男友達はしつこく聞いてきた。

もういいっての。

明らかに不愉快な顔してるんだろうなぁと思いながらも、敢えてそのままの表情で黙っていた。

「俺のよく行く本屋でバイトしてるんだ。いつもありがとね。」

急に声が柔らかくなった拓海に驚く。

見上げると拓海が少し笑ってこちらを見ていた。

・・・笑ってる。私にだよね?

顔が一気に熱くなる。

「もういいじゃん。お腹空いたし行こう。またね、薫、それから、本屋のバイトちゃん。」

拓海は私の気持ちを察してか否か、そのまま男友達の腕を掴んで食券売り場へと向かって行った。

「じゃ、またな。薫、と本屋のバイトちゃん?」

男友達も呆気にとられた表情で拓海に引っ張られていった。

・・・本屋のバイトちゃん?

なんだかわからないけど、嫌じゃなかった。

胸の鼓動がいつもより速い。

「ねぇ、薫。変な奴だよね、やっぱり。」

拓海と男友達を見送りながら薫を見た。

薫は口をきゅっと結んだままじっと拓海達を見つめていた。

今にも泣き出しそうな表情でかすかに目が潤んでいるように見えた。

「薫、どうしたの?」

驚いて薫の腕を掴んだ。