薫が来るまでに、洋服に着替え髪をとかした。

ちゃぶ台の上を台ふきで拭いて、座布団を二つその前に置く。

そして、湯沸かし器でお湯をわかした。

しばらくしていなかたトイレ掃除もしておいた。

一息ついたとき、チャイムが鳴った。

胸がきゅーっと縮むような緊張。

そっと玄関を開けると、いつものキレイな薫が立っていた。

手にはシュークリームを入れた袋をさげて。

「どうぞ。散らかってるけど。」

美鈴は、薫を玄関に通した。

「ごめんね。疲れてるのに。」

薫は相変わらず美しかったけど、薫もまた少し疲れた顔をしていた。

一つに束ねた髪もいつもより無造作に見えた。

「はい、これ。約束のシュークリーム。」

「ありがとう。実は朝から何も食べてなくてお腹ぺこぺこなんだ。」

そう言って笑った途端、自分の中のくだらない妄想や不安が少しずつはがれていくのを感じた。

そっか。

笑わなくちゃダメなんだ。

美鈴は、シュークリームをお皿に移し、紅茶を入れながら思った。

薫の前に紅茶とシュークリームを置く。

そして、自分の前にも置いた。

「お腹空いたからとりあえず食べちゃっていい?」

薫は何も言わず、笑って頷いた。

そして、美鈴が食べてるのを見ながら泣いた。

美鈴は泣いている薫に触れず、食べ続けた。

「おいしい。おいしいよ、薫。」

そう言葉にした時、美鈴の鼻の奥がツンとして、涙があふれ出した。

泣きながら、甘いシュークリームを頬ばる。

今まで食べたどんなシュークリームよりおいしいと思った。