「住んでる県と市まではわかるんだけど、ちゃんとした住所がわからないの。」

「なんだよ、それ。お前、まさか探偵まがいのことやろうとしてんじゃないだろな。」

奏汰の目が少しきつくなった。

探偵・・・か。

そう言われたら、そうかもしれないな。

美鈴は自嘲気味に笑った。

「探偵なんて大それたことじゃないけど、どうしても会って話を聞きたい人がいるの。」

「誰なんだよそれ。」

「T県のN市の沢村さんって人。」

「それって思いきり個人情報だろが。そんなの漏らしたら俺失職だよ。」

「そうだよね。やっぱり。」

美鈴は自分は何言ってんだろって思った。

奏汰が警察だから例えわかったとしてもそんな情報、一市民に教えられるはずなんてない。

「その沢村さんって人とお前はどういう関係?」

奏汰は、相変わらず周囲に気を配りながら聞いてきた。

「私の大好きな人のお父さん。」

「お、お父さん?」

奏汰は時折、巡回を忘れて美鈴を丸い目で凝視する。

それがおかしくて、美鈴はプッと吹き出した。

「どうして、好きな人のお父さんに会いにいかなきゃなんないんだ。やばい系の話じゃないだろな。」

「全然やばくないよ。」

「あやしいな。俺そういうの結構勘働くからさ。」

「その勘は外れてるから安心して。」

奏汰はうつむいて舌打ちした。

「来週道場来るか?」

「どうしようかな。月曜だっけ?」

「来いよ。」

奏汰はそう言うと、美鈴に敬礼してかけ足で大通りの方へ戻って行った。

変なの。

来週の月曜か。

バイトもお昼までだし、いけなくはないんだけど。

今日の美鈴には剣道する元気が残っていなかったから、来週いけるかどうかもわからなかった。

それまでに復活してたらね。

美鈴は、「よいしょ」と自転車を再び押しながら自分の家へゆっくりと歩き出した。