「こうやって並んで歩いてたら、恋人同士に見えるかな。」

沈黙が苦しくて、くだらないと思いつつ投げかけた。

「そうだね。」

拓海は優しかった。

いつもみたいに冷たくあしらってほしかったのに。

それだけで泣きそうになる。

いつの間にこんなに泣き虫になっちゃったんだろう。

拓海にわからないように、こっそり笑った。

その時、拓海のスマホが震えた。

「ちょっとごめん。」

そう言うと、拓海はズボンのポケットに入っていた自分のスマホを取り出し電話に出た。

電話だったんだ。

「・・・あ、うん。そうなんだ。え、今から?」

拓海はそう言いながら、少し気まずそうな表情で美鈴の方を見た。

誰かからの呼び出し?

美鈴は拓海の会話からそう感じた。

まだ一緒にいたかった。

だって、時間は21時。そんなに遅くないんだもん。

まだまだ、拓海に聴きたいことが山ほどあった。

どんな人を今まで好きになったのか。

高校時代、部活は入ってたのか。

どんな本が好きか。

行ってみたい場所は?

・・・あと、車には乗るのか。

電話が終わったらしく、拓海はまたスマホをポケットになおした。

そして私が聞く前に言った。

「薫から呼び出された。大事な話があるって。」

顔から血液がすーっと落ちていくのがわかった。

拓海の口から今一番聞きたくなかった名前。

一番会ってほしくなかった相手。

今、拓海と美鈴が会ってるの知ってて、わざと電話かけてきたんだ。

胸がにぶく痛んだ。

拓海に言いたいけど、それはルール違反だと思って黙っていた。

「そっか。すぐ行かなきゃなんない?」

足下の小石を軽く蹴りながら尋ねた。