「私があなたのお母さんだったらいいのに。」

そしたら、拓海をぎゅっと抱きしめてあげられる。

「愛してるよ」って何度でも言ってあげられるのに。

鼻の奥がツンとした。

拓海は私の方を見て、ようやく少し笑った。

「君はやっぱり変わってるね。」

「変わってるわ。あなたほどじゃないけど。」

拓海の笑った顔が好き。

もっと笑ってほしい。

「あなたの実家はどこなの?」

「隣の県のN市。多分、まだ親父もそこに一人で住んでる。」

「心配じゃない?」

「別に。酒さえあれば奴はどこでも生きていけるさ。」

「お酒好きは、あなたもじゃない?さっきから何杯目?」

「それほどでもないよ。君に付き合って飲んでるだけ。」

いつの間にか、さっき頼んだばかりのジョッキも空けていた。

「このままだと、えらいことになりそうだね。場所変えようか。」

拓海は空になったジョッキを指で数えながら、真顔で私に言った。

「そうだね。学生の分際で贅沢だわ。」

二人は店を出ることにした。

美鈴が折半しようと持ちかけたのに、どうしてもと言って拓海が払ってくれた。

そんなにお金もないはずなのに、必死に背伸びして支払ってくれてる拓海が愛しい。

自分の高鳴る胸をぎゅっとこぶしで抑えた。

近くの川辺の畔を歩く。

途中、コンビニで買ったコーラを飲みながら。

「どうして、弁護士になりたいと思ったの?」

川面に丸い月がユラユラと浮かんでいた。

「誰か人のためになることをしたかったんだ。弁護士って直接的にそれが叶うでしょ。」

「間接的には嫌だったんだ。」

「そうだね。実感として残る方がいいって思った。だけど、想像以上になるのは大変そうだけど。」

「うん。よくそんな職業めざしてると思うよ。私なんて、ほんとダメだわぁ。」

またダメダメな自分を思い出して、情けない気持ちになった。