「気にならないの?お父さんが今どうなってるか。」

「全く。」

「本当に嫌いなんだ。お父さんのこと。」

「そうだね。」

そう言いながらも拓海の声は沈んでいた。

本当は嫌いじゃないんだと思った。

「なくなられたお母さんはどんな人だったの?」

拓海が顔を上げた。

「知らない。小さい頃にいなくなったから。」

「思い出とかないの?」

「ない。忘れた。」

お母さんの話をする時の拓海は明らかに父親の時と違っていた。

何かにおびえるような、触れられたくないような、拓海の全身が強ばっているように感じた。

「お母さんのこと、もっと知りたくはないの?」

本当は、拓海の背中をさすってあげたかった。

手を挙げかけてひっこめる。

それができないことがとてももどかしかった。

「知ってどうするの?知ったところで母親が戻ってくるわけでもないし。」

「どうして知ろうとしないのかっていう方が不思議だわ。」

拓海は黙ったままビールを口に運んだ。

「お母さんがあなたをどれほど愛していたか、記憶に残ってないなら尚更知らなくちゃいけないわ。」

「僕を愛してたかなんてわからないよ。もし、愛していなかったらどうする?記憶にも残ってない相手に愛されてもいなくて、ましてや自分のせいで死んでたりしたら?」

あ・・・。

そういえば、宮浦さんが言ってたっけ。

拓海は父親から、お母さんがお前のせいで死んだって言われ続けてたって。

これ以上聞くことは許されないような気がした。

だけど、拓海はやっぱりお母さんとちゃんと向き合えてない。

愛されてないかもしれないことに怯えてるんだ。