拓海が入れてくれたもつ鍋を摘んで口に入れた。

ふわっとショウガとニンニクの香りが鼻から抜ける。

もつ肉の独特の臭みは全くなくて、思っていたよりもあっさりとしたスープ。

「おいしい。」

思わず口から出ていた。

「でしょ?」

拓海ももつ肉を口に放り込んだ。

ビールをお代わりしながら、もつ鍋を食べて、くだらない話をして笑った。

拓海は自分と一緒にいて楽しいんだろうか。

時々、ふと寂しそうに見える瞳に不安になりながら、美鈴はビールを飲んだ。

拓海の白い肌がお酒のせいか少しピンクに染まっていた。

「今日は、僕のこと色々知りたいんじゃなかった?」

拓海から振ってきた。

聞きたくて、でも聞いたら離れていきそうで、だけど知りたくてしょうがない。

美鈴はなかなかそのタイミングがつかめなくて迷っていた。

「あなたの過去が知りたい。どこでどういう風に育ったか。」

思い切って言ってみた。

他人から聞いた拓海の話ではなくて、拓海自信の口から聞きたかった。

子供の頃のこと。お母さんのこと。

拓海は前を向くと、ビールを一口飲んだ。

「僕が小さい頃、母親は死んで、父親と二人で暮らしてた。」

「そう。」

「お父さんはどんな人だったの?」

「正直嫌いだった。いつも酒ばっか飲んで、幼い僕に当たり散らして。サイテーな親父だったよ。」

「今、お父さんはどうしてるの?」

「知らない。大学で家を出たっきり連絡もしてないから。」

「仕送りとかしてもらってないの?」

「あんなやつに世話になりたくないよ。家庭教師や塾の講師とか割のいいバイトでなんとかやりくりしてた。」

拓海はそういう人だと思った。

そして、それができちゃう人。