人の家でお風呂になんて入ったことがない。

 いちるの家でオールした日も、お風呂を借りるなんてありえないし。

「入っちゃってるし……」

 風呂場に窓があって、そこから夜景が見える。なんて贅沢なんだろう。

 佐伯さんとのキスを思い出し、顔を何度も洗った。逢阪が来てくれなかったら、私、どうなっていたのかな。

 キスのその先、つまり、肌と肌を合わせていたのだと思う。

 そういうのって、どんなに好きな相手とでも、かなり勇気がいると思う。もうなんでもいいやって、流れに任せようとした自分は何を考えていたんだろう。

 1度経験してしまえば違ってくるかもしれないけれど、なにせ未経験なのだ。流れに任せてできるほどの心の余裕なんてない。

___〝あいつ、婚約者いるだろ〟

 その言葉がショックだった。

 だって私は、今でもあの人が好きだから。