逢阪の家は、モデルルームになりそうなくらいスタイリッシュだった。リビングの大きな窓からは、夜景が一望できる。

 だけども、生活感がまるでない。

「ここ、使ってるの?」

「あまり」

 なんだか勿体ない。こんな場所に住んでいながら帰らないなんて。

「ねぇ、いちるってもうお酒飲める年なの?」

「え?」

「さっきの電話の相手、いちるでしょ?」

「ああ、そうか。お前、いちるの年知らないんだっけ」

「…………」

「座れよ」

 そう言われ、ソファに腰掛ける。

 大人の男の住んでいる部屋なんて、大地やいちるの家しか知らない私からしたら新鮮そのものだ。

 タバコに火をつけると、逢阪は空気清浄機の側、L字型のソファの隅に座る私から一番離れた場所に腰かけた。

 ……煙がこっちにこないように、気を使ってくれているのかな。

 そういえば、逢阪はいちるの家では吸っていないよね。仕事現場でも。

 一緒に食事する時だって。

「出逢ったばかりのあいつは、鈴以上に世間知らずな、引きこもりのガキだった」

「いちるが…?」

「それが、どうだ。今は立派に自分でやっていけてる。親が子供の巣立つところを見守るってこんな気分なのかなって思うよ」

「………」

 逢阪は、テーブルの上にあった透明のガラスでできた灰皿にタバコを押し付けて火を消すと、立ちあがった。

「こい、こっちだ」