浅倉の言葉を無視して空き教室に残った私は、震える手でスマホを操作していた。

 メールの送信完了画面を確認した私は教室へ行き、鞄と回収した張り紙をもって、そのまま学校を離れた。


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 家に帰ると、制服を着たまま自室のベッドへと倒れ込む。

 いつもしているようにPCの電源を入れる気力もない。

 始業式とはいえ、妙に帰りのはやい私におばあちゃんは『おかえり、鈴ちゃん』といつも通り声をかけてくれた。

 それだけで無性に泣きそうになったから、すぐに階段を上ってきた。


「……っ…………」

 
『私、百瀬茉由。モモでもまゆでも、好きに呼んでくれていいよ。鈴ちゃんって呼んで良い?』

 私の目に見えるバリアを平気で潜(くぐ)ってきたモモに日に日に心を開いていった。

『この化粧も髪型も、男ウケ狙ってる。せっかく女の子に生まれたんだもん。お洒落したい、可愛く見られたいって思うのは、悪いことじゃないでしょ?』

 ふわふわしてそうで、サバサバしているところが好印象だった。

『鈴ちゃんのこと侮辱しないでくれる?』

 私が悪口を言われた時は、自分のことのように怒ってくれた。

 そんなモモのこと、信じたかった。

 最初から疑えば、こんなに絶望することもなかった?

 モモの気持ちにはやく気づけば、なにか変わっていた?