昼休み。


うまくごまかして七海くんを巻いた私は、職員室に行ってみた。


七海先生が顕奘さんに近づいて、何か包みを渡した。お弁当のようだ。


顕奘さんは驚いて、戸惑っている風だった。


けれど、自分のお弁当を出し、いらないと、申し訳なさそうに手を振った。


こっちはこっちで、他の独身教師が羨望の眼差して見ていた。


他の先生のやたら大きな声が聞こえた。


「なんてもったいない!!私なら自分の弁当を隠してでも頂きますけどね、女心がわかってないようじゃあ、まだまだですな」


余計なこと言わないでよ!!
顕奘さんはそういう人なんだから!!


と、ふと、昔と何かが違う気がした。


昔はこんな場面に居合わせたこともない。


『優しくて思いやりのある顕奘さん』なら、拒まなかったはずだ。


いや、そうなのか??


私が知っている顕奘さんを『そういう人』と言い切る私は、顕奘さんの何を知っているのだろう。


ただ単に、そうであってほしいという願望が、たまたまそうなっただけじゃない。


いかにも私は顕奘さんのことなら何でも知っているような気になっていた。