そこからのことは覚えていない。ただなんとなく、夢なのか現実なのか。誰かが私を抱き上げて運んでくれたような気がした。


その匂いはお父さんでもお母さんでもない気がした。


――ふと、目を覚ます。


夜が明けていた。
時計を見ようと伸ばした手に、何かが触れた。


髪の毛の感触だ。
何ごとかと飛び起きた。


いや、起きようとした。
けれど頭に痛みが走り、首元にも足元にも重みがある。


はあああっ!?


目と鼻の先に、男の顔がある。
顕奘さんだ。


「け、け、……???」


奴が、同じベッドで、気持ちよさげに寝息を立てている。


私を抱き枕にして。


事態を把握できずにパニクる私をよそに、目を覚ました奴はのんびりあくびした。


「……何だ、起きたのか」


「おお、起きたのか、じゃないでしょう??これは一体どういうこと!?」


「どういうことって、ここは俺のベッドだ。お前の家じゃうるさくて寝られねえと思って、運んで帰って、そのまま寝ちまった。それだけ」


「それだけって、それだけって!!それなら普通、自分はベッドの下で寝るとか、別の部屋で寝るとか!!」


「俺も酔ってたし、覚えてねえ」


「覚えてないって、そんな無責任な!!」