バタバタと走る女の子がいた。

私はその横で鏡に向かっている。


鏡の前に座っている。


鳴瀬陽葵と書いてなるせひよりと言うのが私の名前だ。

でもそれはつい昨日までのこと。

今日から私は藤井陽葵になる。


もう婚姻届は出してるから正確には先週から藤井陽葵だ。

私と
藤井さん。

真っ白なドレスに身を包んでどこともなく自分の顔のあたりを眺める。

「結婚式か。」

綺麗にセットしてもらった髪やいつもの10倍は美人に見えるような化粧を台無しにするような表情でボケッと呟く。

「陽葵さん、マリッジブルーですか?」

さっきまで慌ただしくバタバタと小さな部屋の中を走り回っていた女の子が私の顔を鏡越しににやにやとのぞき込む。

美加ちゃん。
この髪とメイクを担当してくれた女の子だ。

「何言ってんの。逆だよ逆。藤井さんの事考えてたの。」

美加ちゃんは嬉しそうににこっと笑うと私のおでこに1本だけかかった前髪を丁寧に直す

「素敵。もう陽葵さんも藤井なんですよ?博雄さんって呼んでもいいんじゃないですか?」

今日私と結婚式を挙げてくれる藤井さん。




彼と会うのは今日が3回目だ。