アンモニア臭がして、とてもじゃないが心地良いとは言えないトイレの一番奥の個室。

便座に座り、母お手製の弁当を開けて頬張る。

うまい。

特に卵焼きは、小学生の頃から変わらない味で気に入っているのだ。

好きなものはいつも最後に。

今日も例外ではなく卵焼きを脇に寄せて他のおかずをまず平らげる。

昼休みだから、トイレの中まで廊下のざわめきが聞こえてくる。

ワイワイガヤガヤ、賑やかだ。

そんな中、男子の集団がトイレへと入ってくる声がした。

僕はとっさに身を縮こませ、

寂しくトイレ一人飯をしているということを悟られないように箸を止めた。

シャーッと用をたす音が聞こえてきた。

早く出てけ…と心で念じる。

まだ奴らではないだけマシだが。

いじめが始まってから、人間の気配に敏感になった気がする。

とにかく人と同じ空間にいたくなかった。

一人がいい。

一人が楽だ。

そう自分に言い聞かせて、白米を一口。

そろそろ卵焼きを食べようかな、と箸を向けたとき、

頭上から大量の重みが僕へと降り注いできた。

普段から長い前髪やブレザーの中に着ているワイシャツは体に張り付き、

さっきまで食べるものとして僕の手の中にあった弁当も、べちゃべちゃになっていた。

卵焼きは、降り注いだ水の衝撃で弁当箱から落下し、床に落ちていた。

楽しみにしていたのに。

個室の上から水をかけられた。

弁当もブレザーも水浸しだ。

「ギャハハッ、だせぇ!!」

外からは、また下世話な笑い声が聞こえる。

こっそり教室から出たはずだったのに、見つかってしまったのか。

図太いやつらめ。

こんなことをするしか能がないのか、なんて悪態をついてみる。

到底言えないのだけれど。

「霧島くーん、水浴びはどうでしたかー?」

「ブレザー綺麗になったっしょ?」

「俺ら優し〜」

奴らのくだらない声かけに、僕はだんまりを決め込んだ。






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