せっかく母がクリーニングに出して綺麗にしてくれたブレザーに、
白い粉が付着し、汚れてしまったではないか。
また、学校の水道で洗って帰らなければならない。
母に迷惑はかけられない。
何よりいらぬ心配をされたくない。
今もなお下世話に笑い続ける奴らを尻目に、僕は最小限粉を払い、席へ向かう。
だが、そこでもまた絶望することになる。
僕の席があるはずの場所には不自然な空間ができており、
本来の僕の机があるはずではない場所…窓際、一番後ろの教室の隅に僕の机は鎮座していた。
問題はそこではなかった。
「あれ、席ないねぇ、霧島くん?」
「あ、あそこにあるじゃん!…あれれー?」
わざとらしくにやけながら僕へ近づいてくる主犯ABCの3人。
僕は振り返らない。
「なになに、霧島くんは死んだの?」
「え、じゃあ俺らが見てるのってユーレイ?こわー!」
「悪霊退散!ってな!ぎゃは!」
僕は反応しない。
ここで泣いたり、怒ったりすれば奴らの冷やかしがヒートアップすることを嫌というほど知っているからだ。
ぐっとこらえて、自分の机の下へ。
机の上に置いてある一輪の花。
それが何を意味しているのか、奴らはその重みをわかってさえいないのだろう。
死んだものを悼み、安らかに眠ることを祈るための花。献花。
僕は死んでなどいないのに。
毎日毎日、学校の誰よりも生を意識して過ごしているというのに。
苛立つ気持ちを、その花を窓から放り投げることで晴らした。
ひらり、風を受けて落ちていく花。
花びらが一枚、剥がれ落ちて、落下していく。
僕は自分の机を元の位置に戻すべく両脇を抱える。
「シカトしてんじゃねーよ!ゴミ!」
シカトするなという言葉もシカトして。
静かに席を元に戻し、座った。
そこでタイミングよくチャイムが鳴り、同時に先生も入ってきた。
すると、3人はそそくさと自分の席に戻り、いじめっ子の顔を隠す。
よくできたものだ。
頭に付着したチョークの粉を払いながら、僕は先ほど窓から投げ捨てた花を思う。
1年前にも、あの花と同じ意味で机に置かれた花があったことを思い出す。
一輪、静かに咲き誇っていた様子が脳裏に蘇ってきた。
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