side:R.O
一番空に近い場所があたしの居場所だったの。
誰にも知られず、誰にも邪魔されない、秘密の場所。
ふわりと風に吹かれて、
腰の少し上辺りまで伸びた黒髪と、眉毛辺りで切りそろえた前髪が揺れる。
ついでに胸の赤いリボンも風にあおられ、そよぐ。
風はもう夏の香りを纏っていた。
そんな風の中で、あたしは向こう側に行きたくて歩き出す。
眩しい太陽に目を細めながらも、
手をかけ、向こう側へとび越えようと身を乗り出したとき。
「何してるの」
背後から、あたしよりもずっと低い声が風に乗って聞こえてきた。
あたしは驚きもせずに振り返って、
あたしを見上げる栗毛を見たの。
あたしはこの場所を見つかってしまったことにひどい落胆を覚えて、
早く栗毛にこの場所から出ていってほしかった。
だけれど、そいつは、あたしと同じ風の中で。
「戻っておいで」
あたしよりも随分と長い腕を広げて、あたしを引き留めたの。
優しく微笑んで、また口を開く。
「危ないよ、ほら」
あたしに向かってさらに両腕を広げて見せる。
あたしは、何も反応しなかった。
「―――君は、僕とよく似ているね」
そいつがそう言った瞬間、泣いてるみたいに笑ったから、
あたしはその表情に魅入ってしまって。
だからかな。
掴んでいたものを離して、ふわりと風に乗り、
そいつの腕の中へ飛んだの。
そいつの匂いが鼻孔いっぱいに広がり、
なんとも言えない安心感を覚えた。
不思議。
そいつはあたしをぎゅっと抱きしめて、甘い声で言ったの。
「おかえり」
そうしたら、胸がきゅうっとなって。
「…ただ、いま…?」
あたしはそれに答えた。
それが始まり。
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