「へー」

男の子は感心して鳴海のことを見上げた。

「つまりね良平君、これを毎日続けるとねぇ…不思議なことに人というのは好きだと言われると、自分も相手を好きだと錯覚してしまうんだねぇ」

「へーーー」

先程の二割増し感心しながら、男の子は鳴海を尊敬の眼差しで見上げた。

「父さんすごーい。それ使わせてもらうね」

「どーぞ、どーぞ。でもね、一つ注意しなきゃいけないことがあるんだよ」

「え?何ソレ」

鳴海は少し小さな声で答えた。

「この方法は単品であつかわないと効果がないんだ。つまり他に何かしたり、手を出したりしたらダメね」

「え?何で?」

「女の子っていうのはね、追いかけられると逃げたくなる人もいるんです。そーゆー娘は気を長ーくして罠にかかるのを待つのがいーんですねぇ」

まるで先生のような口調で、自分の12才になる息子に、とくとくと説いている。

二人のやり取りを黙って聞いていたさつきは、ふり返ると鳴海をにらみつけた。

「そーうーかー、罠といえば確かに…私はまんまと引っかかった訳ね…錯覚?そうか錯覚だったのねぇ」

じと目で見つめられても、鳴海はびくともしない。