何も変わりのない一日だった。

昨日のセリフは冗談だったのだろうか…いや、そもそも全てがドッキリなんじゃないの、これ…

千歳は売り上げ伝票をにらみながら、そう思い始めていた。

一日中、気を張っていたので、肩すかしをくらった気分だ。

いつものように鳴海は仕事を済ませると、エプロンをイスにかけ「じゃ、お先に失礼します。お疲れ様」と頭を下げて出て行こうとした。

「うん…お疲れ様」

いつものように、ふり向かずにカウンター席に座っていた千歳は、一瞬気を抜いてしまった。

長い一日だった…肩の力がふと抜けた瞬間、鳴海がその時を見逃す訳がない。

「ねぇ、千歳さぁ」

扉の前でふり返り、何気ないふうに鳴海が話しかけた。

「はい?」

千歳は無防備に後ろをふり返った。

「好きだよ」

しっかりと千歳の目をとらえると、鳴海はニヤリと笑った。

カシャーンと軽い音がしてペンが床に落ちた。

「な・な・な…」

な・しか言葉にならず、真っ赤になってパニクっている千歳の反応を、いとも楽しげに観察してから鳴海は、

「また明日」

とセリフを残して帰って行った。