「……で?」

千歳は長い沈黙の後で、ふり向かずにそう返すと、そう来るかと少し苦笑しながら鳴海は答えた。

「で・ね、千歳さん、あなたを口説こうかなと考えているので…その辺よろしくね?」

おどけた口調で宣言すると、鳴海は笑った。

どこまで本気なのか、この男は…ドキドキと鼓動が早くなる中、驚かされてばかりいる千歳は負けじと言ってやった。

「やれるものなら、やってみれば?」

このセリフを聞いて鳴海は少し驚いたが、

「…本人の了承も取れたことですし、遠慮なくやらせて頂きますね」

と返し、新しいゲームを始めるかのように楽しそうに笑うと、こう付け加えた。

「昨日は(今日と)順序が逆になっちゃってゴメンね。じゃ、お疲れ様」

「?!!」

カランコロンとドアベルの音を残して鳴海が帰って行った。楽しげに…

昨日は順序が逆だとう?!?順序が逆じゃなきゃ謝らないという意味か?!

改めて鳴海のたちの悪さを思い知る千歳であった。

「そうだ、そうだった…鳴海は、そうゆーヤツだったよなぁ…」

ぶつぶつとつぶやきながら、薄暗い店内でより暗い気分の千歳は、明日からの事を考えると頭が痛くなってきた。

「もつだろうか、自分…」

鳴海は人を驚かすのに(おちょくるかもしれない)喜びを感じるタイプだ。どんな手で来るか…

千歳はカウンターにうつぶしたまま、一夜を過ごすはめになった。

何か恨みでもあるのだろうか、逆に…