店はいつもより少し込み合い、お互い話しをすることもなく終わった。

鳴海は自分の仕事を済ませると、エプロンをはずしてイスにかけた。

「じゃあ、お先に失礼します」

いつものように、売り上げ伝票をカウンター席で書き込んでいた千歳に向かって鳴海は声をかけた。

「うん…お疲れ様」

数字と格闘している千歳は、ふり向かずにそう返事をした。

戸締まりを最後に残したお店の扉がカランと鳴り、鳴海が出て行くのが気配で分かった。

「…」

千歳は手を止め、コーヒーを口にしようとした時、

「ねぇ、言い忘れたんだけど…」

ひょいと突然、鳴海が店の中に顔だけ現れた。

「わっ」

千歳はビックリして、持っていたカップを落としかける所だった。

「何?!」

いくぶん怒り気味に、ふり向かずにたずねた。

鳴海の行動に驚かされっぱなしで、千歳は少しも面白くない。

「好きなんだ」

「何を?」

「千歳を」

「ブフッ」

千歳は口にしたコーヒーを吹き出してしまった。カウンターがコーヒーまみれになる…