ゴシゴシと涙を拭いながら私は大きく頷いた。…彼等に迷惑をかけたくなくて、ただ頷くしかなかったんだ。
律さんは抱き締める腕をほどくと、見慣れない光沢のある革生地の黒い手袋をはめて改まった口調で口を開く。
「―それでは月丘ルナさん。貴方を上の世界へとお導き致します。宜しいですね?」
『…っ…はいっ!』
岳の寂しそうな笑顔が目に写って、感謝を伝える為に、必死に笑顔を作って微笑んだ。
「それでは私の手をお取りください。」
彼の手にそっと手を重ねる。すると優しく握り返されて律さんの体温が感じられた。
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