「へえ。中村さんに強引に出掛ける約束を取り付けられたんだ?」


中村が言い出したことが、俺にはあまりにも意味不明過ぎて。昼休みに息吹と斗和に意見を求めると、息吹はお気に入りのバトル漫画の最新刊を読みながら、毛ほどの興味もなさそうにつれなく言った。

「美樹さ、それってもしかして困ってるんじゃなくて、遠まわしにカノジョにデートに誘われたって俺に自慢してる?」


ちなみに学内は漫画を読むことどころか持ち込みすら禁止だけど、息吹はあまりにも堂々としすぎていて気付かれることがなかった。

仮に教師が見つけたとしても、素行も良く成績もトップをぶっちぎってる息吹を注意しずらいだろうなとは思う。


「くそぅミキちゃんめっ、土日も部活の練習漬けなってる俺らにリア充アピールかよっ?!」

斗和はまたしても意味の分からないモテ僻みで俺に噛みついてくる。


「はあ?今の話のどこが自慢だよ、俺昨日フラれてんだぞ。なのに出掛けるのに誘われるって意味わかんねぇって言ってんだよ」
「ミキちゃんさー、もしかしたらカレシから荷物持ちに格下げされたってことなんじゃん?せいぜい土曜日は紗綾ちゃんにコキ使われて来いや」
「それか中村さん、気が変わっておまえと別れるのやめたんじゃないのか?」

「や、ないだろ。昨日の今日だぞ、一度見切り付けた相手にそんな簡単に気持ちが変わるかよ」
「でも女の子って気まぐれだろ。そういうこともあると思うけど」


息吹はカノジョが出来たことなんて(俺の知る限りじゃ)一度もないはずなのに、女心を知り尽くしたような涼しい顔で言ってくる。


「じゃなかったらさ、ミキちゃんは中村紗綾と一時でも付き合ったことで、いろんなところに妬み嫉みに恨みを買ってるからね。紗綾ちゃんファンがおまえをボコる決起集会土曜に開くから、そこに呼ばれたんじゃん?」
「あのな。だから俺がフったならまだしも、こっちがフられた側なんだぞ。恨まれるどころかむしろその手の野郎には喜ばれるはずだろ」

「あ、そっか。じゃあ息吹の言う通り、別れて改めておまえの良さに気付いて惚れ直したとか?それでやっぱ別れるのやめたとか!」


たった一晩でそんなドラマチックなことが起きててたまるか。


だいたい俺は昨日、中村に最低なことをやらかしたんだし。俺が頭を抱えて斗和とあれこれ言い合っていると、急に息吹が漫画を閉じて不機嫌そうに眉を顰める。