京子はエレベーターに乗った。

その時ちょうど20代の女の子二人が掛け込んできた。
見覚えのある香りがした。
どうやら昼休みを終え職場へもどるみたいだ。

「店長、どんどんきれいになってるよね」

「サロンの商品そろえようかなぁ」

「松本さんといい感じと思わない?」

京子は耳をすまして聞いた。

「そんな感じするね」

二人は二階で降りていった。

エレベーターの中には、京子の夫である松本が、時々持って帰ってくる香りが残っていた。

京子は何不自由なく、暮らしている。ただ子供ができなくて、毎日遊び歩いても満たされなかった。

最近松本も忙しいといって、仕事帰りに会って食事をする回数がすっかり減ってしまい退屈だった。

近くで買い物したついでに、驚かそうと思い事務所に寄ってみた。

でも、京子の目的はかわっていた。

深呼吸をしてエレベーターから降りた。

事務所の扉が開けた。

「こんにちわー」

「奥さまぁ、おひさしぶりです。いつもありがとうございます。」秘書だ。

「松本は?」

「上の店で、クリスマスメニューの試食にいっております。」

「じゃあ、行ってくる」と事務所を出た。