彼は口数が少ないけれど、けして冷たい訳ではなく、飾らない言葉で素直に話してくれる。

コンサートの失敗談や、昨夜メンバーと飲んだ話、いろいろ話してくれた。
私にとって最高に幸せな時間だった。

彼の携帯がなった。
「もしもし、うん、うん、わかった。すぐいくよ。」
彼は電話を切って、立ち止まり、
「すみません。今から打ち上げが始まるから、来いって電話でした。」少し残念そうな顔をしてくれような気がした。

「じゃあ、お散歩は終わりですね。すぐ行ってください。」

「駅まで送ります。」

「すぐそこだから大丈夫です。」なるべく明るく言ってみた。

「今日は来てくれて、ありがとうございました。」と彼は最高の笑顔で頭を下げ、しっかりと私をみた。

またドキドキした。本当にこれが最後になる。
いい印象で終わりたいそう思った。

「すごく楽しいイヴでした。これからもずっと応援しています。ありがとうございました。」私もしっかりと彼の目をみて、笑顔で頭を下げた。

「ありがとう。じゃあ…」と彼は急いでホテルへ戻って行った。

私は彼が見えなくなるまでずっと見送った。彼は一度も振り返らずに行ってしまった。