8時半を過ぎ、店内はイヴを楽しむカップルが増えていた。

彼はキャップを深くかぶり直して、出口へ向かった。
案内してくれたスーツ姿の人へ会釈をして店を出た。芸能人って感じがした。

出口へ向かうとき、何人かが青木領と気づいたみたいだった。

私と彼はどう見えたんだろう。

「階段でおりますか?」って彼はふざけて聞いてきた。
「やめてくださいよ。一人じゃないから大丈夫です。」と今日初めて、彼に向かって自然に笑うことができた。
彼も笑っていた。

二人でエレベーターに乗った。扉が閉まりかけたとき、ディナーを終えた6人家族が乗ってきた。

奥へと押され、ラッキーなことに彼の右腕にぴったりとくっつくことが出来た。
この心臓のドキドキが伝わるんじゃないかと思った。
あっという間に1階に着いた。
ホテルの玄関から、街路樹に飾られたイルミネーションのトンネルが公園まで続いていた。たくさんのカップルが歩いていた。

「きれいだなぁ。」と彼は独り言のように言った。

隣で私は頷いたけど、本当は見上げていた彼の横顔に見とれていた。

ゆっくり歩き出した。

椅子よりも、散歩する方がリラックスして話せた。