飲み物が二つ置かれ、同時にグラスに手をのばした。
ネイルまで手入れしてきて、正解だった。

「乾杯」と彼がグラスを私のグラスに傾けた。

「メリークリスマス」と私は小さな声で言ったら、彼も続けて言った。
「メリークリスマス」

彼はカクテルを一口飲んで、正面の夜景を見ながら
「イヴですね。」と言った。
「イヴです。」と私は彼の横顔を見ながら言った。なんて素敵なクリスマスなんだろう。

私たちは少しずつ言葉を選びながら、下に見えるクリスマスツリーや、エレベーター事件のことを話した。
彼は時々、私をみて笑ったり、返事をしたりして話を聞いていくれた。

そして思いきって、ずっと気になっていたことを聞いてみた。

「今日、初めて私を見てびっくりしませんでしたか?」
「初めてじゃないから、びっくりしてません。」

「えっ、私を知ってたの?」
「うん。」と、彼は頷いて笑った。そして説明してくれた。
「あの舞台の日、挨拶回りをすませ、春野さんを探しに行ったんです。ちょうどタクシーに乗るところで…すごく悲しい顔をしてました。」彼は夜景をみた。

「…」私はうれしかった。あの日の私を気にかけてくれて。