そして、爽やかないい香りがした。

私は顔、匂い、しぐさ、すべてを記憶して帰りたかった。

突然こっちを向いた。
「急に呼び出したりして、すみません。」近い…

「大丈夫です。」私はひきつりぎみの笑顔で優しく答えながら、来るに決まってると、心の中で付け加えた。もう完全に自分じゃなくなっている。

「そと…きれいですね。」ぎこちなく話す彼がテレビとは違い、距離感をちぢめてくれる。

「うん…そうですね。」

さっきの店の人が、メニューを持ってきた。

彼は
「少し飲んでもいいですか?」

私はうなずいた。

「じゃあ、僕はこれを…」
「私はこれで」とグレープフルーツジュースを指差した。彼は少し笑っていた。

もともとお酒に弱いので、彼の前で飲む勇気がなかった。この状況だと、すぐにお酒がまわりそうだ。

「びっくりしましたか?」
「気絶するくらい、びっくりしました。」

「気絶したら、会えなかったですね。」といたずらっぽく彼は言った。

もし気絶してたら、私は一生後悔したにちがいない。
このまま時間が止まってほしいと、何度も何度も思った。

そして私は徐々にに自分を取り戻してきた。