「はあ、――」
スクールバッグの中を探っていた手のひらを、溜め息と共に引き抜いた。
折りたたみ、入ってない……。
こんな日の為に毎日持ち歩いていたはずの赤い折りたたみ傘。それが鞄の中、どこを探したって見つからないのだ。
最後に使ったのって、いつだったっけ。
ああそうだっ、瑛理奈に貸したままになってるんじゃない??
「んもうっ……」
最近雨なんか降ってなかったらすっかり忘れてた。
瑛理奈、絶対忘れてる……って、今の今まで私も忘れてたんだけどっ。
降ってきたら……家まで走るしかないか。
心の中でぶつぶつ悪態を吐きながら、私は八幡さまの前を通りかかる。
通学路の途中にある小さなこの町の観光名所、それが、八幡さま。
正しくは、櫻井北八幡宮、南八幡宮といって、二つの神社が道路を挟んで向き合って建っている姿は全国的にも珍しいらしい。