忘れたい、忘れよう。
そう願っていたはずなのに、時折夢に見る。
『好きだよ、翠』
囁く彼とキスをして、迎えた初めての夜。
ベッドの上で私を押し倒した彼が言ったのは、愛を誓う言葉ではなかった。
『……ごめん。やっぱり、無理だ』
その時の、躊躇う瞳が記憶から消せない。
「っ……」
バッと目を開き夢から覚めると、そこはいつも通りの自分の部屋。
ベッドの上に横になったまま目を向ければ、窓からは朝の日差しが室内を照らしている。
「夢……か、」
はぁ、と少し荒い息を漏らし体をゆっくりと起こせば、額から汗がぽたりとたれた。
……また、嫌な夢を見た。
それは、もう6年も前のこと。
最初で最後の恋人の、忘れられない言葉。