「千川が笑うと、嬉しいな」
「え?」
「最近、なんとも言えないような変な顔ばかりしていただろ。なにかあったのか、気になってた」
……気づかれて、いた。
この心の本音までは知られていなくとも、些細な表情の変化を気づかれていたなんて。
少し恥ずかしいような、嬉しいような、複雑な気持ちだ。
「笑顔のほうが、かわいい」
けれど、その言葉とともにこぼされる彼の優しい笑顔に、それは一気に嬉しさに変わってしまう。
不思議。忘れたはずの心が、その表情によみがえる。
あたたかくて、嬉しくて、愛しい気持ち。
この感情は、あの日しまい込んだはず。
なのに、彼の前ではどうしてか、また心の蓋が開く。