「なぁなぁ!さっき梅田さんと仁科店長がふたりで帰るのが見えたんだけど!あれなに!?」



二階の窓から見えたのだろう。お客様がいないからと大きな声を出す藤井さんに、松さんは笑う。



「いろいろあって、しばらく仁科店長が梅田さんを送ることになったんだよ」

「マジで!?仁科店長うらやましいなぁ、梅田さんみたいなかわいい子とふたりで帰れるなんて!」

「藤井くんって本当、思ったこと率直に口に出すよねぇ……」



呆れたように言う松さんに、悔しがる藤井さん。そんなふたりに私は黙ったまま、また自分の手を見つめる。



……梅田さんみたいなかわいい子とふたりで歩いていたら、仁科さんもその手をとりたくなるのかな。

かわいいとか思ったりして、抱きしめたくなったりするのかな。



そんなことをひとりで考えて、また胸が痛い。



……さっきからいちいち胸が苦しいのはなんでだろう。

もしかして、私……落ち込んでいる?



仁科さんと梅田さんが似合っていると感じたこと。

ふたりはきちんと“男女”に見えること。

それに加えて、仁科さんのあの優しさは、誰にでも平等だと思い知ったことに、対して。



これまで彼が私に向けてくれた優しさは、『上司として』、部下に向けてくれたもの。



『スタッフの通勤時のこととなれば俺にも無関係なことじゃないだろ』



そう言って、彼が今上司として梅田さんの隣を歩くように。これまで彼が私にくれた優しさも、上司だから与えてくれたんだと思い知る。



……わかってた、はずなんだけどなぁ。

触れられることに慣れていないこの心は、その平等な優しさにも簡単に自惚れてしまうんだ。