「しばらく誰か男性に彼氏のフリして送ってもらえば?藤井くんとか上坂さんとか」
「けど〜、藤井さん頼りないし、上坂さんは家の方向真逆だし……」
「あっ、じゃあそれこそ仁科店長……は、『個人的なトラブルくらい自分で解決しろ』とか叱られそう」
たしかに……ちょっと想像つく。
梅田さんも、仁科さんに送ってもらえれば嬉しいのだろうけれど、叱られることも簡単に想像つくのだと思う。うーん、と悩ましげに口をとがらせる。
かと思えば私を見て、「あっ!」とひらめいたように声を出す。
「じゃあ、千川さん彼氏のフリしてくれません?」
「へ?」
わ、私……?
「けど私一応女だし……」
「暗いところならわかりませんよ〜、体型も遠目から見ればどう見ても男だし!」
そう断言されるのは複雑だけど……。
でも梅田さんが困っているのも事実だし、なにかが起きても大変だし……。元カレが諦めるまでの数回程度なら、仕方ないかな。
「どうかしたのか?」
頷こうとしたその時、突然彼の声が割り込む。
その声に振り向くと、ちょうど部屋の入り口には仁科さんの姿があった。
私たち3人がなにやら深妙な空気で話をしていることから、なにかがあったと察したのだろう。不思議そうに問いかけた。
「あ……いえ、なんでもなくて」
「なんでもない、という空気には思えないが」
ジロ、とこちらを見るその目に、私たち3人は『うっ』と肩をすくめると、渋々先ほどの話を説明した。