「たまには身近なところで社内恋愛とかしてみたら?藤井くんとかフリーだし」
「えー?藤井さんはイヤですぅ。すぐ調子乗るし」
あはは……たしかに。
藤井さんの性格は皆大体わかっている。わかったうえで彼の名を出した松さんに対して、梅田さんの不満げな言い方に苦笑いがこぼれた。
けれど、梅田さんは「あ」と思いついたように言う。
「あ、でも仁科さんならいいかも」
「え!?」
突然の『仁科さん』の名前に、ドキッと心臓が跳ねた。
つい出てしまった大きな声に、ふたりは気にせず会話を続けている。
「仁科さん、かっこいいしクールで落ち着いてるし、出世もしそうだし文句なしですよねぇ」
「いやー、私は好みじゃないなぁ。それに仁科店長は梅田さんの元カレみたいにバッグ買ってくれたりするタイプじゃないと思うよ?」
「えー?意外と彼女には甘そうだと思うんだけどなぁ」
恋人に対する仁科さん、かぁ……。
たしかに、意外と優しいところもあるし、恋人にはもっと甘いのかもしれない。
そう思いながら女性に優しく微笑む仁科さんを想像すると、なぜか胸の奥がチクリと痛んだ。
って……なんで?
そんな自分の心がわからずにいると、突然目の前のピンク色のカバーのスマートフォンがヴー、と音を立てた。
それは梅田さんのものだったようで、彼女はそれを手に取り画面を確認すると、嫌そうな顔をしてみせる。