愛しいとか、恋愛感情だとか、そんな気持ちは6年前のあの日に置いてきたはずだ。
なのに、どうしてだろう。
彼が不意に見せる、その表情を知るたびに、心はときめきを隠せない。
メガネの奥のその冷静な瞳が微笑むと、嬉しくて。
ドキ、と、またちいさな音が鳴る。
「あーあ、どこかにいい男いないかなぁ」
ある日の昼間、スタッフルームで昼食のサンドイッチを食べながら梅田さんはぼやく。
そのひと言に隣でお弁当を広げていた松さんと、まだ仕事中で書類仕事をしていた私は顔を上げた。
いい男って……あれ?
確かついこの前、バッグを買ってもらったって話をしていたばかりだった気がするんだけど。
「え?梅田さん確か、彼氏いなかった?」
「別れちゃったんですよ〜、なんかマンネリ?みたいな?」
率直に問いかける私に、梅田さんはグロスで光る唇を尖らせて答えた。