どんなにいいものを生み出しても、それがお客様に届かなければ意味がない。
だからこそ、自分たちの言葉で、接客で、お客様のもとへ届けられる私たちの存在はまた大切なものなんだ。
そう思うと、仁科さんの接客に対する厳しさの理由がわかった気がした。
「ただのドSってわけじゃなくて、仁科さんの厳しさにも理由があったんですね」
「ドSって、お前なぁ……」
『そんなふうに思っていたのか』とでもいうかのようにジロ、と睨む仁科さんに、私はつい笑みをこぼす。
「仁科さんの接客が上手なのも、いつも堂々してかっこいいのも、大切なものがあるからなんですね」
『幸せだった』と言ってほしい。届いてほしい。
その願いとまっすぐな思いが、彼を突き動かす大切なもの。
笑みをこぼして言った私に、仁科さんは少し驚いたように固まった。かと思えば、突然顔を背けてしまう。