「俺が高校にあがった頃、その祖父が病に倒れ、半年ほど自宅で寝たきりで過ごして亡くなった。『最期をここで過ごせて幸せだった、ありがとう』って言って、な」

「幸せ、だった……」



残りわずかの時間を眠り慣れたベッドで、見慣れた景色と嗅ぎ慣れた香り、聞き慣れた家族の声に包まれて過ごせたことが、幸せ。

そのおじいさんの言葉が、仁科さんの心を打ったのだろう。



「その時に、思ったんだ。人が人生の最期にいたいと思える場所を、俺も作りたいって」

「それで、この会社に?」



たずねると、彼はメガネをかけ直しながら頷く。



「あぁ。本当は本社の商品開発部を志望するつもりだったが、その年だけ商品開発部が募集をかけていなくてな。なら販売員を経てからでもって思ってたんだ」

「えっ、じゃあ今でも本当は商品開発部にいきたいんですか……?」

「最初はそう思ってたんだが、今では店舗でよかったと思ってる」



つぶやく彼は、そっと柔らかな笑みをこぼす。



「開発部が情熱を込めて作ったものをお客様に届けられるのは、俺たち販売員だけだからな」