「……あの、さっきの話の続きを聞いてもいいですか?」
思い出したように話題を切り出すと、彼は不思議そうに首をかしげる。
「話の、続き?」
「仁科さん、さっき『寝具メーカーしか考えてなかった』って、言ってたじゃないですか。それってどういう意味なのかなって」
それは、先ほどたずねようとしたこと。
どうして仁科さんがこの仕事に就いたのか、知りたいという気持ちを隠すことなく問いかけると、仁科さんは少し考えてから口を開いた。
「子供の頃、一緒に暮らしていた祖父が突然大きなベッドを買ってきたんだ」
「へ?」
仁科さんの、おじいさん……?
いきなりなんの話を、と不思議に思いながらも話の続きを待つ。
「茶色い木造のベッドで、マットレスも枕も全てオーダーでかなりの金額を費やしたらしい。父がひどく呆れてた」
「たしかに……全てオーダーとなるとそれなりの金額いきますよね」
「祖父いわく『人の一生のうちの3分の1を占めている睡眠時間を心地よく過ごせないなんて損してる』、とのことでな。一理あると感心したのを覚えてる」
一生のうちの3分の1……そういえば、そんな話を聞いたことがあるかも。
そう言われてみるとたしかに、ベッドを『どうせ寝るだけの場所なのに』程度にしか思えないのはもったいないのかもしれない。
そう思いながら、彼の額に大きめの絆創膏をそっと貼る。