それから店頭は上坂さんや松さんたちに任せ、私と仁科さんはスタッフルームで怪我の治療を行っていた。
もしもの時のために常備してある救急箱を取り出し、椅子に座り向かい合った私に、彼は自分で押さえていたハンカチをそっととる。
見れば、血が止まった傷口は小さいながらもぱっくりと切れてしまっており、痛々しい。
「消毒しますね、メガネ外してください」
「いい。ほっとけば治る」
「ダメです!」
珍しく強い口調で言う私に、仁科さんは渋々メガネを外した。
「……意外と強引なところもあるんだな」
「仁科さんは自分のことになると気にしなさ過ぎです。この前私には『自分を犠牲にするのは褒められない』って言ってたのに」
もう、と呆れたように見れば、彼はバツが悪そうに目をそらす。
「けどよかったんですか?さっきの人、帰しちゃって」
「あのまま居座られても、他のお客様の迷惑になるだけだ。二度と来ないならそれでいいし、またなにか言いに来たら徹底的に向き合う」
ガーゼに消毒液を染み込ませると、彼の傷口をポンポンと消毒する。
少ししみるのか、ピクッと眉間にシワを寄せた彼の表情は少し新鮮だ。