「松、クレームの内容は?」



急ぎ足で通路を歩きながら、仁科さんは状況確認をする。



「半年近く前にオーダーメイドの枕を買われたそうなんですが、『やっぱり気に入らないから返品しろ』って。返品は一ヶ月以内しか出来ないことを伝えたら、『使い心地の悪い粗悪品を無理矢理買わされた』って騒ぎだして」

「そんな今更……」



気に入らないからって……自分で選んだものなのに。しかも、半年も前だなんて。

文句をつけてくるお客様は度々いても、そこまで身勝手な人もなかなかいない。



渋い顔をする私と松さんに、仁科さんはこんな時ですらも冷静な真顔のままだ。

早足で店頭へとやってくると、そこには「ふざけるな!!」と声を荒げる年配の男性と、それに対し腰を低く対応する上坂さんの姿があった。



「大変お待たせ致しました、責任者の仁科と申します」

「仁科さん……」



落ち着いた声でその場に割り込む仁科さんに、上坂さんは少し安心したように一歩退く。

するとお客様は、すかさず仁科さんに食ってかかった。



「お前が責任者か!一体どうなってるんだこの店の商品は!それに従業員も『返品出来ない』の一点張りで……」

「申し訳ございません。ですが当社規定で、ご返品はご購入後一ヶ月間までと決まっております。ご購入の際にそちらもお伝えしてあるかと思いますが」



いきなり声を荒げるお客様にも、仁科さんは怯むことなく堂々と目の前に立つ。