「けど正直、仁科さんならうちの会社よりもっと大きな会社に行けたんじゃないですか?」
うちの会社の規模もそれなりに大きい。
けれど、仕事が出来て真面目で、学歴も申し分ない。そんな仁科さんなら、お給料がもっとよかったり、キャリアを目指せるようないい会社に勤められたとも思う。
そんな純粋な疑問をそのまま投げかけると、仁科さんは「どうだかな」と呟いた。
「俺は、最初から寝具メーカーしか考えてなかったからな」
「え?どうして……」
『どうしてですか?』と聞こうとした、その時。突然バン!とドアが開けられたかと思えば、血相を変えた松さんが現れた。
「あっ……いた!仁科さん、大変です!お客様からクレームです!!」
「クレーム……?」
「はい。すごい勢いで乗り込んできて、今上坂さんが対応してるんですけど全然おさまらなくて……」
非常に慌てた松さんの様子から、そのお客様のクレームがよほどすごいものなのだと察する。
それは仁科さんも同じようで、話を聞きながらすぐ部屋を出て行く。
自分が対応したお客様だったらとんでもないことだ、と私も同様にふたりの後に続いてスタッフルームを出た。