うう、やっぱり厳しい……。
じんじんと痛む頬を両手でおさえ、少し高い位置にある彼の顔を見上げる。
そんな私に、彼からはふっと笑みがこぼされた。
「だが、お前のその真っ直ぐさは長所だな」
メガネの奥の涼しげな目を細め、口角を上げる。
いつも無愛想な彼が見せる、柔らかな笑顔。初めて見るその表情に、ドキ、と胸が音を立てた。
変えよう、と言った彼はこうして度々手を伸ばしてくれる。
その手を取るかは自分次第で、その一歩できっとこの世界は変わるのかもしれない。
微笑みを見せる彼の目を、じっと見つめて向き合った。
「仁科さん、さっきは助けてくれてありがとうございました。……それと、今朝藤井さんから聞きました。仁科さんから、言われたって」
「別に、大したことは言ってない」
謙遜しているわけではないのだろう、平然と言う彼に私は小さく首を横に振る。
「大きいことです。……こんな自分でも、少しずつでも変われるかもしれないって、そう思えました」
自分を理解しようとしてくれる人がいる。優しさを差し伸べてくれる人がいる。
それだけできっと、この世界は変わるのかもしれない。なんて、そんなまだささやかな期待のひとつ。
だけど、そう小さな可能性に気づけたのは、仁科さんのおかげだから。
心から笑ってみせた私に、彼の瞳もいっそう優しく細められた。