「お客様!お怪我はありませんか!?」
「だ、大丈夫です……」
「よかった……」
驚きを隠せない様子の彼女に、ホッと胸を撫で下ろし、抱きしめていた腕を離した。
それと同時に、旦那さんは急ぎ足で駆けつけると彼女の体を確認しこちらへ頭を下げる。
「すみません、店員さん!ありがとうございますっ……!」
「いいえ。お客様がご無事でなによりです」
にこりと笑顔を見せ、ゆっくりと立ち上がると、ふたりは安心感に表情を緩めた。
「お客様、出口までお見送りいたします」
そのタイミングで松さんは声をかけると、散らばったカタログを素早くまとめ引き続きふたりを出口まで案内する。
去り際にこちらを見た松さんは『私が見送るから大丈夫』と目で合図をして、その場を後にした。
それを見送りながら、私に続いて仁科さんも立ち上がる。
「千川、お前は大丈夫か?」
「はい、私は全然……って!私より仁科さんですよ!大丈夫ですか!?」
「あぁ。背中を少しぶつけただけで大したことない」
そう言いながら、スーツのジャケットの袖についた埃をパンパンとはたく仁科さんは、いたって普通の顔だ。